震度7以上の大地震で「倒壊リスクが高い家、低い家」の決定的差!

阪神淡路大震災の犠牲者のうち、死因の約8割を占めたのが、建物の倒壊による窒息死または圧死です。

このことから、大地震で命を失わないためには、「住宅の倒壊を防ぐこと」が最低かつ必須条件といえます。

本稿では、住宅の倒壊を防ぐための三つの工法、「耐震」「制震」「免震」について見ていきましょう。

建築物等の構造物設計・解析を専門とするある方が「免震工法」を推奨する理由とは?

家の倒壊を防ぐための工法、「耐震」「制震」「免震」

多くの人にとって家は、1日のなかで最も長く過ごす場所だと思います。

そのため、大震災発生時にあなたや家族の命を守るための第一条件は、住宅の倒壊を防ぐことです。

現在、一般的に考えられる住宅の倒壊を防ぐ方法は、建物を「耐震」「制震」「免震」のいずれかの工法で建てることです。

とはいえ、どの工法を選択しても結果が同じというわけではありません。

いったい何が違うのか考えていきます。

耐震工法とは?

最も一般的な倒壊を防ぐ工法で、現在の建築基準法もこれをメインに考えられています。

具体的には、建物の構造材である柱や梁を金物などで緊結し、さらに筋交いなどで強度を確保します。

要するに、できるだけ頑丈な造りにして倒壊しにくくする工法です。

ただし、家が地面に金物で緊結されるので、地震の揺れはそのまま建物に伝わります。

耐震工法なら大地震発生時も安心?

建築基準法(2000年基準)では、住宅性能表示制度の耐震等級1が求められます。

したがって、日本全国どの家も最低限の耐震性を有したものでないと建てられません。

住宅性能表示制度とは、2000年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づくもので、誰でも安全で快適な住宅を取得できるようにつくられた制度です。

具体的には国の認定機関が、耐震性能や省エネ性能、耐久性能など10分野の性能を等級によって評価します。

この制度の利用は任意(有料)ですが、耐震に関しては、等級1以上の性能を有していなければ建築が許可されないことになっています。

耐震等級1の目安は、震度6強から7の地震で倒壊しない、震度5強程度の地震で損傷しない程度です。

等級2はその1.25倍、そして最高等級の3は1.5倍の耐震性能を有することが条件になります。

具体的には、壁を強化したり柱と梁の接合部に金物を取り付けて補強したりして、耐震性能をあげます。

しかし免震工法は、耐震等級1以上を満たしたうえで追加して施工することになります。

したがって免震工法は、補強をしなくても耐震等級2〜3程度の性能を有するということができるのです。

では、耐震工法で建てられた家ならば大地震発生時も安心していられるのか、疑問が残ります。

2016年に発生した熊本地震では、最新の2000年基準と呼ばれる耐震性能で建てられた住宅が倒壊したことが大きなニュースとなりました。

一般社団法人日本建築学会の調査報告によると、2000年基準で建てられた木造242棟中、倒壊した建物が7棟(2.9%)ありました。

また、倒壊はしなくても取り壊しが必要となる程度の損傷(大破)を受けた建物が10棟(4.1%)もあったのです。

この結果からは、先の問いにノーといわざるを得ません。

なぜ、震度7の揺れでも持ちこたえられるように設計された家が倒壊したのか。

その大きな理由は、震度7という大きな揺れが2回も襲ったからです。

建築基準法では、二度の揺れを想定していませんでした。

しかし、残念ながら熊本地震によって、震度7の揺れが複数回発生する可能性が証明されてしまいました。

耐震性能“最高クラス”の「等級3」でも安心できない

実はこの結果は、ある程度予想できたのかもしれません。

2004年、住宅実務者向け情報誌『日経ホームビルダー』は、土木研究所(茨城県つくば市)で行った実物大の木造住宅による振動破壊実験を取材しました。

この実験は、阪神・淡路大震災で観測した地震波を振動台で再現したもので、建物は耐震等級1(2000年基準)をギリギリ満たすレベルのものでした。

その実験の結果、建物の1階と2階を貫く通し柱がくの字に折れてしまいました。

試験体の内部には、倒壊防止のためにワイヤーが張り巡らせてありましたが、これがなければ崩れ落ちていたはずです。

その理由を同誌では、次のように分析しています(一部省略)。

「建物の1階は、常に2階や屋根を支えている。

だが変形が大きくなると、こうした重さを支えるのが難しくなる。

変形で柱に角度がつくと、その傾いた側へ重さが寄りかかるからです。

いったん傾いた建物をより傾けようとする力は、角度がきつくなるほど強くなります。

変形が進むと、耐力壁などの耐震要素の破壊も進みます。

耐震要素が破壊され、地震への抵抗力が減った状態でさらに変形が進んで、柱が折れた。これが『等級1』が倒壊したメカニズムだ」

(出典『なぜ新耐震住宅は倒れたか』〔日経ホームビルダー編〕)

このことからいくら耐震性の高い家でも、いったん柱が傾いてしまうと倒壊の危険があることが分かります。

つまり、長時間続く揺れや繰り返す揺れには弱いということです。

さらに木造住宅に限っては、4号特例という課題もあります。

4号特例とは、300m2未満の木造2階建てといった条件を満たした住宅を4号建築物と呼び、建築確認申請の際に構造関係の審査を一部省略することができるという特例です。

住宅を設計する建築士のなかには、この制度を正確に理解せずに、構造のチェックを怠って耐震性能の低い住宅を建ててしまうケースがあります。

これも耐震等級1だからといって安心できない理由の一つです。

そもそも家というものは、震災時に倒壊しなければ、それだけで安全・安心とはいえません。

考えてみてください!

震度7の地震が起きた瞬間、あなたは「うちは耐震等級3だから安心」と思っていたとします。

ところがその直後に冷蔵庫は倒れ、大型液晶テレビは転げ回り、それによって壁中に大きな穴があく。

そして家中がめちゃくちゃになってしまうはずです。

例えれば、耐震工法の家は、鳥カゴと一緒です。

人間が振り回せば、カゴ自体は頑丈なので損傷はありませんが、中の鳥には強大な力が加わります。

上下左右に大きく飛ばされることになるはずです。

無傷でいることが難しいと同時に、部屋の中がめちゃくちゃになるので、そのまま今までの生活を再開することは困難になるに違いありません。

制震工法とは?

制震工法は、建物に伝わる地震エネルギーを、内部の壁に設置した制震ダンパーによって吸収し、地震時の揺れを低減しようとする工法です。

耐震工法と同様に地震動は家の中に伝わりますが、ダンパーがそれを吸収するので、耐震よりは揺れを小さくすることができます。

2000年代以降に大地震が多発したことや、免震よりは安価(1棟あたり100万円程度)に施工できることなどから、大手ハウスメーカーを中心に普及してきました。

なかには標準仕様としているメーカーもあります。

とはいえ、建物の基礎は、耐震と同じように建物と緊結されているので1階部分の揺れはほとんど低減できません。

効果が体感できるのは、多くの場合で2階以上の階です。

その効果も免震ほどではありません。

震度7クラスの地震が発生すれば多少建物の損傷は低減できるものの、やはり室内は鳥カゴに近い状態となり、通常と同じ生活を続けることは難しいはずです。

免震工法とは?

さまざまな形状、重さのモノをテーブルの上に置き、軽く揺するとします。

すると大きく揺れるモノとあまり揺れないモノに分かれます。

これは、テーブルを揺らしたときに揺れが一往復するまでに要した時間=振動特性とその上にあったモノの固有値が同じだと共振して揺れるからです。

固有値とは、各々のモノが固有にもつ周期で、形状や重量によって異なります。

例えば、0.7秒の振動特性でテーブルを揺らすと0.7秒の固有値をもつ物体は揺れます。

2.0秒や3.0秒の固有値の物体は揺れません。

免震工法はこの原理を利用するものです。

これまでの調査から、地震では0.4〜1.5秒の固有値をもつ物体が大きく揺れることが分かっています。

すなわち、固有値が3.0〜4.0の家にすれば震度7の地震が起きても理論上は共振しないのです。

免震工法は、一般的に基礎と土台の間に薄いゴム板と鋼板を交互に重ねて接着した積層ゴムなどを入れて建物を長周期化し、地震の振動を建物に伝わりづらくします。

この工法は、支持機能、減衰機能、復元機能の3つで成り立っています。

普段はアイソレータと呼ばれる積層ゴムなどで建物を支え(支持)、地震発生時は建物の重さを支持しながら建物が移動できるようにします(実際は地面が動く)。

そしてダンパー(オイルダンパー、鋼材ダンパーなど)で地震の揺れを低減(減衰)させ、揺れが収まれば復元材が家を元の位置に戻します(復元)。

このような構造で建物が基礎の上を滑るような状態にして、地震の力が伝わらないようにしているのです。

免震工法の家は、そもそも基礎と建物が絶縁されているので、大きな地震が起きても震動が伝わらず、建物自体の損傷だけでなく、中のモノへの影響も最小限にとどめておくことができます。

また、絶縁されているがゆえに、大きな地震が複数回起きても耐震や制震のようにダメージが累積することもありません。

「免震」の話をすると、ほとんどの方から「上下動に対してはどうなのか」という質問を受けます。

構造物に対して、左右にいっさいぶれない純粋な上下の力が加わったとき、構造物はじつは破壊しにくいのです。

その理由を見ていきます。

構造物の設計に際しては、その構造物に作用する力(応力)に対して限度を示す「許容値」が基準等で規定されています。

その許容値には、実際に破壊に至る値に対して、必ず「安全率」を考慮し低減させています。

例えば橋梁の場合は、鋼材には70%の安全率を考慮しています。

つまり、実際に破壊に至る値に対して、70%の余裕を持って設計上の上限としているのです。

そのうえで上下動について考えてみます。上下動は正に重力方向の振動です。

地球上では常に重力1Gが作用していますので、私たち設計者は1Gの重力を考慮して設計しています。

これに先ほどの安全率をふまえると、1.7Gまで持ちこたえることになりますが、実際の地震動でこの値を超える上下動は非常に稀です。

上下動が大きかったといわれる阪神・淡路大地震でも0・3G強でした。

つまり、まったく左右にぶれない状況で上下動が作用した場合は、構造物は破壊しにくいのです。

しかし、実際の地震動は上下のほか、それよりも大きな前後左右の揺れが作用します。

実際に構造物が破壊する時は前後左右に揺れ、構造物にゆがみ(変形)が生じたときに上下の力が加わり破壊するのです。

したがって、前後左右の揺れによる変形をいかに抑えるかが重要となります。

ある方も以前LNGタンクの耐震設計で、鉛直方向の免震工法を検討したことがありますが、実際は重力方向の免震はほぼ不可能と考えています。

そのため免震工法は、現在考えられる工法のなかでは、「最大の安全」「最高の安心」「最良の減災」を実現するものだといえます。